エッセイ

濃いめのリップ、揺れるピアス、いい香りのヘアオイル。たくましく生きるために必要なモノ。

今までの人生で、「女のくせに」と言われたことはなかった。仕事で「女だから」とないがしろにされたことはなかったし、意見を聞いてもらえないこともなかった。

けれど、仕事で成果を出せば「女のくせに」と嫌味を言われ、出さなければ「女だから」と馬鹿にされる。そんな世界があることも知っている。

私は今まで、とても幸運だったんだろうと思う。女であることを憎んだこともないし、女であることで苦しんだこともない。

もちろん、私が女だから起きたんだろうなぁ、と思うことはある。

小学生のときに、初めて痴漢をされたこと。高校生のときに集団痴漢にあって、助けてもらった人に「もっと気をつけなきゃ」と言われたこと。「いつも女性がやっているから」と、お茶汲みを強要されたこと。会社の飲み会で、上司と2人きりになったタイミングで「口説いていい?」と迫られたこと。白いアイスを食べていたときに、「垂れちゃう垂れちゃう!白いのが垂れちゃう!」と馬鹿みたいなノリで会社の先輩にからかわれたこと。「いくら?」と顔を覗かれていきなり尋ねられたこと。反対に、「遊んであげたいけど犯罪になっちゃうからさ〜」となぜか目が合っただけのおじさんに売春を断られたこと。告白してないのに振られるってあんな感じだろうなぁ。

言い出せばキリがない。これらすべて、私が女じゃなければ起きなかったことなんだろう。

それでも、すべてがくだらないゴミみたいなことだと言えるくらいに、私は強く育った。自分が自分のままで生きられるように、武装の仕方も覚えていった。

学生時代、いくら痴漢をされても私はミニスカートを履くことをやめなかった。社会人になり、上司がセクハラをしてこようが、花柄のタイトスカートを履き、オフショルのニットを着て会社に行った。マツエクを付け、グロスを塗って髪を巻いた。

それは、私にとっての武装だった。

上司に添い寝だけだからと家に誘われても、お気に入りのスカートを履いていれば「無理でーす」と流すことができた。悔しくても悲しくても、きれいなヒールを履いていれば、かわいいピアスを付けていれば、背筋を伸ばして歩くことができた。

誤解がないように言っておくと、私は美人でもないし、スタイルもよくない。『声をかけやすい女』の認識をされることが多かっただけ。

だからこその武装だ。美人でもなく、スタイルもよくない。「どうせ私なんて」と流されるままに進んでしまったら、私はきっと自分を嫌いになってしまう。

「どうしてあんなこと言われなきゃいけないの」と泣くよりも、「モテモテで嫌になっちゃうわぁ」と笑う女に憧れた。メイクをして、髪を巻いて、お気に入りの服を着る。そうして自分を少しでも『いい女』に近づけることで、くだらないセクハラも、にっこり笑顔で流すことができた。

会社を辞め、年齢を重ねて、少しずつ武装も解けてきた。それでも、頭の中の『いい女』に近づきたいときはある。自分をよく見せたいとき、少しでも強くありたいとき、泣かないように踏ん張りたいとき。

そんなとき、私は頭の中にとびきりの美女を用意する。そして、彼女に少しでも近づけるように、丁寧にメイクをする。ファンデーションを塗り、アイラインを跳ね上げ、濃いめのリップを塗る。その工程ひとつひとつが、私を少し強くする。

体のラインに沿った服を着て、大きめの揺れるピアスを付ける。ヘアオイルで仕上げるころには、私は無敵になっている。逃げ出しそうなときには、頭の中の美女が笑いながら言うのだ。

「ダサいまねしてんじゃないわよ」

濃いめのリップ、揺れるピアス、いい香りのヘアオイル。たくましく生きていくために、私に必要なモノたち。